城所理事長コラム 〜第46回〜 「不器用だから、工夫して辻褄を合わせるのです。」 わたしの母がまったく料理をしない人だということは、先にお話をしました。わたしの幼い頃を思い返すと、友だちがお母さんの手づくりお弁当を食べていたり、お母さんの用意した食卓を家族みんなで囲んだ話を聞いたりすると、やはりうらやましいと思った記憶があります。でも母は、いっさい厨房に入りませんでした。 それを反面教師としたのか、わたしは食べ盛りの息子と娘には、絶対に自分で三度三度の食事を自分で作って食べさせてやろうと誓ったものです。あいにく、わたしもそれほど料理を得意とするほうではなく、それは悲愴な決意でした。 娘時代とちがって、わたしはお手伝いさんを雇えない身分ですし、母の食事も用意していました。父はそうでもありませんでしたが、料理をしない母でありながら食べる物にはうるさいのが玉にキズ。しかも好き嫌いが激しいので、なお困りものです。 難題は、みんなの好みが極端に違って相反することでした。母が食べるのは、たとえばタイ、アユ、カニ、エビや、牛肉と、やたら高い物だけです。夫の好みは母とは正反対で、高級魚より安い青魚が好きというありさま。子どもたちは、やはり魚より肉系統を欲しがります。メインディッシュで最低三種類が必要になります。 赤坂に通ってビル管理の仕事をするようになっていたわたしですから、家族五人分の食事を用意するのは負担の大きい家事ではありました。 毎日、買い物に行くという時間はとれませんでした。そこで、一度の買い出しで一週間分を賄おうと考えました。そのためには、それぞれの好みの違いを克服するというパズルのような難題に答えを見つけながら、まず一週間の献立をあらかじめ考えるのが欠かせない仕事でした。 そこで大学ノートを用意し、一ページ分にタテ線を引いてヨコに人数分の欄を並べて名前を記し、タテ方向を一週間分の日にち×三食分で区割りします。これで各人の各食をどういうメニューにするか書き込めるわけです。 そのうえで、右端に大きめにとった備考欄に、左に並んでいる各人のメニューを作るための材料を書き出します。 この材料を記入するに当たっては、スーパーの食材が並んでいる店内地図を頭に浮かべ、入口から入ってカートを押しながら、一巡する流れに沿って陳列台の配列に従って順々に商品を手に取れるような順番で書き出します。 そんな苦労を友人に話したら、回りまわってそれを知った鎌倉書房の婦人雑誌『M』が取材にこられて、それを「家庭整理術」といった記事にしたほどです。 まあ慣れてくると一週間分(一ページ)を十五分くらいで書き込めるようになりました。そして、知恵だってチリも積もれば山となるで、一年、二年と重なると、そのリストから季節メニューのパターン流用ができて、つまり去年のいまごろは、そうか、そういうメニューにしたんだっけ、じゃあ今年もそれでいこう、と活用できます。食べるほうは、去年の今日と同じメニューだと気づくはずはありません。 手抜きということではなく、多少その前後で組み替えてみたりしてバリエーションをもたせることができて、まあ豊かな食卓を演出できるということになります。 要は株や経済の世界でいうマトリックスの手法をどう活用するか、各欄に書き込まれた情報からなにを読み取り、どう配列するかという、知恵の輪クイズということでしょう。そういうクイズと思えば、慣れれば早く答えがみつけられるようになりますし、知恵のゲームを楽しめるというわけです。 なにか目の前に難儀すると思われる問題があったとき、それを初めに難題と考えてしまって気が滅入るより、解いて答えを見つけるのが楽しみなクイズと思ったほうが、精神的にもいいと思うのですが、いかがでしょう。 なにを隠そう、先の裁縫の例ではありませんが、わたしは、ほんとうはとても不器用です。でも頭は使いよう、工夫すれば、なんとか辻褄は合うものなのです。人間って、すばらしいものですね。 商店街振興組合 エスプラナードアカサカ 理事長 城所 ひとみ 商店街振興組合エスプラナードアカサカ 〒107-0052 東京都港区赤坂3-10-5 赤坂クインビル4階 TEL:03-5561-9125 FAX:03-5561-9128