城所理事長コラム 〜第40回〜 「T九段とUさんの発信基地? (前編)」 わたしのビルで、あるとき空室ができました。その頃ちょうど商店街のお歴々から「赤坂には一軒の碁会所もない。欲しいねぇ」と言われ「これは文化の話ですよ」などと追い討ちをかけられました。源氏物語に碁を打つ場面が出てきて、たしかに以後が日本の文化に根ざしたものであることを知っている文学部出身の当方としては、これもご奉仕と、その空き部屋を碁会所に供することにしました。 文化けっこう、街づくりには文化的な拠点も必要です。もちろん料金はいただきますが、サービス価格です。 それはともかく、碁を打ったことの無いわたしは、碁の好きな役員に教えられてその空気にでも接しておきたいと囲碁パーティーなるものに顔を出してみることにしました。それは、囲碁名人だったT九段の出版記念を兼ねたものでした。 パーティーが終わってカラオケの二次会になりました。すると、わたしが指名されるではありませんか。ご一緒した役員の方が勝手にリクエストしておいたのです。 指名されて断るのも失礼と、しかたなく越路吹雪の「ラストダンスを私に」を歌いました。それは、私の十八番です。 と、気さくな感じの中年男性が寄ってこられ、それがT名人でしたが、握手を求められて「ボクの大好きな曲です。こんどは、私が歌いますから、I先生と踊ってください」と、それで、お上手なT名人の歌に合わせてダンディなI棋士と、ルンバ、ジルバ、マンボと三曲を踊ってしまいました。当日わたしはフレアスカートという派手な格好をして行っていましたので、われながら目立ったと思います。それがT先生との始めての出会いです。 会場は、ことのほか盛り上がったようです。すっかり喜ばれたT先生、わたしが赤坂で碁会所を開くのだと知って、オープン日時を問われるがままに、わたしは答えてしまいました。でも「T名人は五分間スピーチをしただけで、ン十万円だ」と聞いていましたから、畏れ多くて、来ていただけませんかなどとは口に出せるはずがありません。 ところが、そのオープン当日、突然なんと先生が現れて、さらには十分ばかり挨拶してくださるではありませんか。ン十万円は要求されませんでした。 それどころか、その数日後に再び先生は、これはダンスを踊っていただいたお礼ですと、色紙を持ってきてくださったのです。 これはもう、宝物です。実際、初めて碁会所を訪れて、その色紙を見て、その後ずっと通いつめるようになった常連客は少なくありません。 T先生の棋風は宇宙流。相手に隅を取らせておいて、一気に真ん中を大胆に取ってしまうという壮大なもので、囲碁をやる人にとっては憧れの対象だとか。 ひょうひょうと現れてウチの碁会所の押しかけ顧問になってくださるあたり、これが宇宙流というものでしょうか。まったく先生は、とらえどころのない意外性の人です。その宇宙流の振る舞いは、わたしをとっても心地よくして下さいます。 商店街振興組合 エスプラナードアカサカ 理事長 城所 ひとみ 商店街振興組合エスプラナードアカサカ 〒107-0052 東京都港区赤坂3-10-5 赤坂クインビル4階 TEL:03-5561-9125 FAX:03-5561-9128