城所理事長コラム 〜第36回〜 「『利き酒』から弾んだ、我田引水のお話」 新宿は京王プラザホテル「天の川」での一晩は、大成功でした。ほんとうの日本酒を味わうことで、S港区長に胸襟を開いていただけました。 わたしも、ことのほか饒舌だったと思います。お酒は、人を楽しくしてくれます。その場を、つややかに潤いあるものにしてくれます。そのお酒を語りだすと、わたしは止まりません。もう少し酒談義に付き合って下さい。 わたしには日本酒を、ただ「辛口だ」「甘口だ」と言ってすませられません。 ごくふつうの言い方でも、せめて「コクがある」とか「キレがある」くらいのことは言います。でも、この専売特許ものの表現は、すっかりアサヒスーパードライというビールに奪われてしまったので、もう陳腐になってしまいました。 そこで「端麗である」などという表現を使っていましたが、これもビールのブランド名で「淡麗」というふうに流用されてしまいました。気にいっていた「まったり」という表現も、いささか使い慣れた料理一般の形容詞になってしまいました。 そこで最近は、もうちょっと長い形容句で言い表すことにしています。たとえば「このお酒は、ちょっと練れてませんね。カチンと堅い感じです。まったりしたお酒を何杯か飲んで飽きたとき、これを口にするとキリッとします。」なんてね。 そんなわたしがよく行く店で、あるときママさんが「こんど新しく入荷したお酒の利き酒をしてちょうだい。わたし飲めないでしょ。お客さまにどういってすすめればいいのか、わかんないの」と、二種類の新酒を出してきました。カウンターのなかでママさんは、メモ用紙と鉛筆を用意して待ち構えています。 その前に三杯ばかり飲んでいましたが、頼まれれば断れません。それぞれ口にしながら「これは芳醇な香りをじっくり楽しむお酒で、女性に喜ばれるでしょうね」「こっちのほうは、どしんとコクがあって、しっかりこたえるわ。ほんとうにお酒が好きな男性向きね」なんて評していました。 するとカウンターの奥にいらっしゃったロマンスグレーの男性が「うーん、なるほどね」と妙になっとくされていたようで「では」と「この酒を飲んでみてくれませんか、わたしが好きな酒なんですが、どうですか」と、これまた頼まれました。 断りきれず、さて「ああ、こういうタイプのお酒がお好きなんですね。とってもダンディですよ。でも、宮城の浦霞で〈禅〉というのをお飲みになると、もっとお気に召すと思いますよ」と答えて、それからしばし酒談義となりました。 ぐい飲みで、もう十杯くらい飲んだかもしれません。でも話しが弾んで、あまり酔っていないつもりでした。 その日、その店には両親と来ていました。両親とも日本酒党で、わたしは遺伝したのでしょうか。ただ両親は銘柄より量をというタイプで、あまりわたしの講釈には関心がありません。さあ帰ろうということになりました。 家に帰って玄関を入ったとたんです、ぐるぐるっと目がまわって、そのまま後ろに倒れかかりました。でも酔眼で、後ろには大きな体の父がいて、大きな胸と大きな手で抱え込んでくれるだろうと、はっきりわかっていました。 その父も、それから間もなく、帰らぬ人となりました。 商店街振興組合 エスプラナードアカサカ 理事長 城所 ひとみ 商店街振興組合エスプラナードアカサカ 〒107-0052 東京都港区赤坂3-10-5 赤坂クインビル4階 TEL:03-5561-9125 FAX:03-5561-9128