城所理事長コラム 〜第30回〜 「わたしは縁故や根回しの男社会に生きていけません。」 道路環境整備の一貫として赤坂田町通りをおしゃれなエスプラナードアカサカと してお化粧しようとしたとき、通りのある一角だけが、その扱いに困りました。 どうしてそういうスペースができたのかよくわかりませんが、表の都道「外堀通 り」がくびれて赤坂田町通りと接する空き地のようになっている数坪の場所があっ て、そこは、どんなに手を尽くしても、いつも車が違法駐車しているのです。夜は白タクの溜まり場にもなっていました。いくら警察がレッカー移動しても、また別の車が止まり、延々とイタチゴッコを繰り返していました。 だれもが「困ったなぁ」という嘆きのタネでした。ほんとうに困ったものでしたが、あるとき、ひらめきました。そこを緑の植え込み「グリーンアイランド」にし たらどうかというアイディアです。 あの道路部分というか土地はどこの管理下なのかと港区に問い合わせてみると、それは都の所有するスペースでした。 それなら都へお願いしに行くにかぎると、担当セクションはどこか、区の担当係長さんに尋ねました。すると「いきなり行ってもなんだから、わたしがアポイントをとってあげます。それに手ぶらで行くより具体的なプランを持参したほうが話は通りやすいでしょうから、あなたのアイディアをわたしがかんたんな図面にしてあげますよ」と、本来の業務とは関係ないのに係長さんは仕事外で図面を描いてくださり、段取りをとってくれました。 親しくなると、お役人はなんて親切なのでしょう。その係長さんは、都庁にも同行してくれました。暇だったからとはいいますまい。たまたま他に用事があり、そして親切心からのことだったとは思います。 さて都庁の関係部署に入っていき、そして担当課長さんに会いました。おおむね用件は港区の係長さんから聞いていたようです。わたしが口を切る前にその課長さんは、いきなり、わたしの顔を見て「へぇ、女性が来ましたか」と意外なことを口にするではありませんか。 すぐに、相手の言わんとすることがわかりました。それまでも耳にしていましたが、商店会の会長というのは古株の男性がなるものだという固定概念があって、つまり「男がくるものだと思っていた」というわけです。 はじめは女性を馬鹿にしているのかと思いましたが、課長さんの口ぶりが不遜でないのは、次に彼が口にした「よく政治家も使わず、ここまで来たものですね」と感心するかのような言葉でわかりました。 つまり男性のやり方は、リスクや失敗がないよう、たとえば人縁を頼り、必要ならば区に行くなら区会議員、都に行くなら都会議員、国に行くなら国会議員と政治家にも頭を下げて、根回しのかぎりを尽くそうとするのでしょう。最終的にシャンシャンと手を打つわけです。 いいか悪いか、わたしにはそういう発想はありません。根回しという意識とも無縁です。 そういうわたしの「責任ある立場のあなたのような方に直接お会いし、ストレートにこちらの意向を伝えてこそ、率直に是非を判断いただけると思ったから来たのです」という言葉に、課長さんは、いたくプライドをくすぐられたようです。 そして、あるいは女性の前でカッコいいところを見せようとしたのか、すぐに部下に向かって「これこれこういうことだから、すぐ予算を取りたまえ」などと命じていましたが、こちらは内心いささか妙な気分ながら、めでたしめでたしと笑みを浮かべて課長さんの顔を見ていました。 そうして翌年さっそく新しい予算で、くだんの道路脇の空き地が「グリーンアイランド」に生まれ変わりました。 この件では、わたしは区へ行き、そして都へ行きはしたものの、さいたる努力をした覚えはありません。 その後に港区の土木部長さんにお会いしたとき「城所さん、あなたはいいですねぇ。うらやましいいですよ」と言われました。 エッと問い返すわたしに、部長さんは「われわれがなにか東京都にお願いする場合、書類を万全に整え、しかるべく根回しして、それでOKが出るまでに三年、そして実現するまでに五年はかかろうという、そういう世界なんですよ。ところが、あなたが行くと即OKなんですから・・・・・・」と。 なるほど港区の係長さんも、東京都の課長さんも、わたしが女だったからこそ、なんとか力になってやろうとしてくださったのでしょう。 そのことを、わたしは色付きメガネで見ることはないと思っています。 わたし自身は「女」を売り物にしようという下心はありませんし、また媚びを売るつもりはありません。 ただ素直に「世の中、そういうものなんだなぁ」と思うだけです。 ふだん男社会の最前線で陣頭指揮しているインテリ男性にかぎって、ふつうなら男が出しゃばる場面で、いきなり目の前に女が現れると、いたく心打たれ、なんとか力になろうとする傾向が強いようです。眠っていたナイト精神がよみがえって、かよわき女を自然に守ろうとするのでしょうか。 だからといって彼らはなにか見返りを要求しませんし、ただ多少なりとも力をかしたことをもって喜びとし、胸を張ってくださるのです。 商店街振興組合 エスプラナードアカサカ 理事長 城所 ひとみ 商店街振興組合エスプラナードアカサカ 〒107-0052 東京都港区赤坂3-10-5 赤坂クインビル4階 TEL:03-5561-9125 FAX:03-5561-9128